盗撮をしてしまったという場合、これが刑事事件となりうること自体は、多くの方が理解されていると思います。しかし、盗撮行為といっても、態様は様々です。
どのような場合に、どのような法令によって、罪となるのか、そして、罪を犯してしまった場合どのような対応をしていくべきなのかについて、説明します。
まず、盗撮行為そのものを取り締まる法令としては、各都道府県の迷惑行為防止条例があります。これは、都道府県ごとに異なる定めがあるので、一概には言えませんが、東京都の迷惑行為防止条例(公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例)を見ると、盗撮行為については、以下のように定められています。
①「住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所」 ②「公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物」 のいずれかにおいて、「人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置」する行為の内、「正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為」
このように、少なくとも東京都においては、公衆の場であるか住宅等の私的な場であるかを問わず、盗撮行為は、迷惑行為防止条例違反となりえます。一方で、都道府県によっては、迷惑行為防止条例の目的は、あくまで公的な場における迷惑行為の取り締まりにあるとして、私的な場所での撮影行為等について、取締対象としていない場合があります。しかし、条例に定めがないから刑事事件とならないかというと、そういうわけではありません。その場合は、「正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た」(軽犯罪法1条23号)として、軽犯罪法により処罰されえます。
これらを整理すると、相手方の同意などの正当な理由なく、通常衣服で隠されている下着や身体を、写真機等で撮影したり、撮影機器を差し向けたり、設置する行為は、盗撮として刑事事件になりえるといえます。実際に撮影ができていなくても、カメラを差し向ける行為や、設置行為があったことが証拠上明らかであれば、処罰対象となりえます。
⒜ 盗撮にあたる場合
駅や電車、お店などで、女性のスカートの中に、録画状態にしたスマートフォン等を差し向ける行為や、他人の住居や、各種施設の更衣室・トイレ等に侵入してカメラを仕掛ける行為は、盗撮にあたります。また、風俗店でサービスを受ける際に隠し撮りする行為、配偶者や恋人の許可なく性行為を撮影する行為も盗撮となります。不貞行為の証拠をつかむために、配偶者のカバンに隠しカメラを仕込み、性行為が撮影されていれば、これも盗撮となります。
⒝ 盗撮にあたらない場合
一方で、被撮影者の真実の同意のもとに撮影しているような場合は、盗撮にはあたりません。着衣の状態でその容姿を撮影する行為や、顔を撮影するといった行為は、盗撮として刑事事件の対象とはならない可能性があります。ただ、着衣の状態で胸付近を撮影した場合や、後姿を撮影した事案でも、刑事事件の対象として捜査されたケースもあり、一概には判断できない面もあります(これらは、迷惑行為防止条例における「卑わいな言動」として刑事事件になったものと考えられます)。
スカートの中を撮影する行為は、盗撮として処罰対象となりますが、そのような場合でも、刑事事件として継続的に捜査されないこともあります。刑事事件として立件するには、基本的には、犯罪事実の特定が必要です。誰が、いつ、どこで、誰(何)に対して、犯罪となる行為をしたかにより、犯罪事実は特定されます。
盗撮の場合、この内、誰を撮影したかが明らかでない場合であっても、刑事事件として取り扱われえます。例えば、渋谷駅のエスカレーターで盗撮をし、被害者に気付かれることなく行為が終了したが、目撃者の通報により罪が発覚したというようなケースでは、被害者が誰であるかはわかりません。警察としても、このような不特定多数の人物が出入りする場所において被害者を特定することは困難であるとして、被害者特定のための捜査は行わない可能性があります(一方で小さなお店や会社など、被害者特定が可能なケースであれば、特定していくことは考えられます)。それでも、誰が、いつ、どこで撮影したかが明らかであれば、被害者不明のまま立件することは十分に考えられます。
一方で、例えば、盗撮事件で捜査を開始したところ、被疑者のスマートフォンに大量の盗撮データが見つかったというようなケースでは、被疑者自身も、それらの全てを、いつどこで撮影したか覚えていないということもあります。日時は撮影データから特定しえますが、どこで撮影したかは特定も困難です。このような場合、全ての撮影について、事件として立件することはせず、捜査されている事件において、常習性等の問題となるにとどまります。
盗撮により、迷惑行為防止条例違反等に問われた場合、行為態様や、件数にもよりますが、盗撮について刑事事件として捜査されるのが初めて(初犯)であれば、多くのケースは、罰金刑となることが見込まれます。罰金刑であれば、刑務所に行くようなことはありませんが、前科がつき、社会生活に多大な影響を及ぼし得ます。そこで、弁護士に依頼して、被害者の方に謝罪と賠償をし、示談をすることで、不起訴処分となるように活動していくことが必要です。被害者の方と示談ができているケースであれば、多くの場合、不起訴処分となります。
盗撮をした場合、迷惑行為防止条例や軽犯罪法に抵触するほか、その態様や映像の内容によっては、他の罪にも該当しえます。
駅やお店、更衣室やトイレ、他人の住宅等で盗撮を行う場合、その場所について、盗撮という不当な目的をもって立ち入ったといえます。そのため、建造物侵入や、住居侵入といった罪が別途成立しえます。
撮影した映像等を他者に渡したり、ネットにあげたりした場合、わいせつ物頒布等の罪に該当する可能性があります。これは有償・無償を問いません。
いわゆる児童ポルノ禁止法です。撮影した映像が、18歳未満の子供を対象としたものであった場合、これが同法に定める、性交又は性交類似行為に係る姿態、他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの、衣服の全部又は一部を着けない姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等、その周辺部、でん臀部、胸部)が露出・強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものに該当すれば、児童ポルノを製造したとして、同法の処罰対象となりえます。
いわゆるストーカー規制法です。 盗撮行為が、恋愛感情に由来するつきまとい行為等の一環として行われた場合、これに該当する可能性があります。
盗撮行為に付随してこれらの罪にも該当し得る場合であっても、必ずしも別途それらの罪により立件されるわけではありません。
ほとんどのケースは建造物侵入にあたると考えられますが、例えば駅での盗撮において、これを別に処罰するケースは少ないといえます。一方で、住宅に侵入して盗撮をした場合には、これについても処罰するとする可能性はあります。そのため、盗撮について示談すると同時に、住居侵入についても示談をする必要があります。
併せて示談をする必要があるという点は、ストーカー規制法に違反するようなケースにおいても、同様のことが言えます。
一方で、わいせつ物頒布等や、児童ポルノ禁止法に反する場合は、示談をすることにより、必ずしも不起訴にはならないといえます。 わいせつ物頒布等の罪は、(同罪による)具体的な被害者はいないことから、示談をする対象がいません。とはいえ、盗撮画像を流出させたことを含めて示談することに一定の効果が見込める可能性もあります。
児童ポルノ禁止法に関しては、被害者と呼べる人物はいるとしても、同罪は、社会の安全・健全性に対する罪という側面もあるため、示談をしてもなお罪に問われる可能性はあります。ただ、これについても、示談をすることにより、不起訴となる可能性はあがります。
盗撮により刑事事件として捜査を受けた場合、示談が必要になりますが、盗撮は性犯罪に分類され、弁護士が介入しないと、被害者の方が連絡先の開示すらしてくれず、示談交渉をすることができないという状況が予想されます。まずは弁護士に相談しましょう。
示談ができないケースにおいても、贖罪寄付や、性嗜好障害の治療など、弁護士のサポートを受けて、不起訴処分を目指して活動していくことができます。
盗撮事案では、早期に被害者の方と示談をしていくことが重要です。また、取り調べに対して、どのように受け答えをしていくかなども、弁護士のアドバイスを受けた方が、適切な対応が望めます。ケースとして多くはないとしても、盗撮により、逮捕されてしまうこともあります。早期にご相談いただくことで、なしうる対応も多くなります。
渋谷・池袋・横浜の弁護士法人オリオン法律事務所までご相談ください。盗撮事件対応経験を有する弁護士が、お話をお伺いします。
著作者:弁護士 枝窪 史郎
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